『ステラ・ステップ』と会いました。

お久しぶりです。キムです。

 

2023年1月にMF文庫Jより発売された『ステラ・ステップ』の感想について、書こうと思います。

 

 

感情の起伏に乏しそうな女の子と、

打って変わって満面の笑みを咲かせる女の子の相対的な表紙が特徴的ですね。

 

《あらすじ》

突如飛来した隕石により地上は荒廃。人々は新しい国家を建て、闘争や略奪を繰り返していた。
国家間の戦争の手段として「暴力」と置き換えられたのが、少女たち「アイドル」だ。
砂漠で覆われた「砂の国」に、国民からは崇められ、少女たちからは恐れられているアイドルがいる。
技術を高めることだけに関心を持ち、感情はどこかに置いてきてしまったかのような少女・レイン。
最強を誇る彼女の無敗記録はずっと続くはずだった。
だが、感情豊かに歌う少女・ハナによってその記録は止められる。
このハナとの出会いは、レインの胸にこれまで知らなかった感情を芽生えさせ――。

 

色のない世界で生まれた、少女たちの愛と絆の物語。

 

 

ジャンルという要素(スパイス)の掛け算が、カレーのように上手く混ざりあって煮込まれた作品

既読者として未読の方へ向けて、この作品をジャンル付けして紹介するとなると、

・アイドル

・荒廃した世界(ポストアポカリプス?)

・バトル

・ファンタジー

・百合

と、ネタバレにならない部分だけでもこれだけのジャンルが挙げられるかなと思います。

一つだけでも作品が出来上がりそうな色の濃い王道的なジャンルですが、それらが互いの色味を損なうことなく上手く混ざり合っており、この作品と構成するのに欠かせない要素になっていると思います。

 

例えば、「荒廃した世界 ✕ バトル」だと、限られた物資を奪い合うために前時代の重火器で人を傷つけ合う、というようなイメージが私の場合はパッと浮かびます。

しかしそこに「アイドル」という要素を加えると、「荒廃した世界で、舞台の上で戦うアイドル」に変わり、さらに「百合」という万能調味料を加えることで、「同じ事務所のアイドル」や「主人公をライバル視してくる他国のアイドル」、「最強のアイドルを負かした少女」などの関係性を持つキャラクターも生まれます。

多様なジャンルを混ぜ合わせることで、(変な喩えですが、Webサイトの絞り込み検索のように)物語としての可能性を狭めるのではなく、掛け算として可能性の幅が広がって生まれた作品なのではないかと思いました。

 

普段読まないジャンルであっても、混ざり合うことで知らない味に仕上がっているかもしれません。

多くの人に味わって欲しい作品です。

 

 

ここが面白かった!

「最強のアイドル・レインが敗北してから感情が芽生えていく中で、少しずつ真相が明かされていく」という物語の進み方に、一番魅力を感じました。

 

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レインがハナと出会わずに無感情のままだったら、当然物語は動くこともないので、レインも読者もこの世界について何も知らないままでした。

主人公のレインがハナに向かって一歩(ステップ)を踏み出したからこそ、物語が進んでいき、知らなかったことを知り、見えていなかったものが見えていく。

そんな様子が、読んでいてとても心地よかったです。

特に物語のちょうど中盤あたりで明かされた一つの事実が、個人的に一番の衝撃を受けました。

 

レインは、一言で言えばストイックな性格をしてます。

あらすじにもある通り、「砂の国」が誇る最強のアイドルである一方で、

 

感情を捨て、

 

余計な知識も記憶も捨て、

 

なんなら食事も休養も人から言われなければちゃんと取らないような、人間として最弱のような子です。

 

そんなストイックなタイプのアイドル。

自分が遊んでいる某アイドルゲームにもそういう子がいたりしたので、

「まあ、そういうアイドルもいるよね」と、

 

レインの性格を自然に受け入れて読んでいたら、

見事にハマってしまいました~~~

 

 

何故、レインは感情を捨てたのか。

 

何故、レインは知識も記憶も捨てたのか。

 

少しずつ明かされていく真実を読み進めていくうちに、まるで自分が立っている足場が崩れるような感覚に陥り、この作品の虜になり、物語の終盤まで一気読み。

そして最後にまた衝撃を受けて、もう一回衝撃を受けて、あとがきで平静を取り戻してから、告知ページで再衝撃。

感情を乗せたジェットコースターがどこかに飛んで行ってしまいました。

 

 

 

最後に!

ここからは少し、あとがきについて触れます。

 

あとがきにて、作者の林星悟先生が「この作品の構想は某アイドルコンテンツの無観客ライブイベントを見た衝撃から生まれた」と書かれていました。

その衝撃を「良かった」「凄かった」で終わらせず、こうして一つの作品を生み出す力に変えた林先生と、この作品を作り上げた方々に感服しました。

 

同じ作品かは分かりませんが、私も「アイドルコンテンツの無観客ライブイベント」を配信で見た経験があり、当時は無観客の中でも懸命に歌い踊り輝くアイドルたちの姿と、誰もいない客席から彼女らを応援する光に衝撃を受けて、新しい時代の夜明けだと感じました。

 

(重ね重ね、林星悟先生と同じイベントを見ていたかは分かりませんが)

この『ステラ・ステップ』という作品も、夜明けの後に咲き始めた一つの物語なのかもしれません。

 

などという勝手な妄想をしながら、

これからも『ステラ・ステップ』と林星悟先生を応援していきたいです。

 

ではでは、さよならー。

 

 

 

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